「立ち直り」という言葉の難しさ - 未解決事件被害者家族が感じる社会との温度差
「立ち直り」という言葉が胸に迫る時
未解決事件の被害者家族として日々を歩む中で、周囲からかけられる言葉の中に、時に胸の内に複雑な感情を呼び起こすものがあります。その一つが、「早く立ち直ってね」「もう大丈夫でしょう」といった「立ち直り」に関連する言葉かもしれません。
善意からくる励ましであることは理解しています。しかし、私たち被害者家族にとって、「立ち直る」という言葉には、簡単に受け止めきれない、いくつかの難しさがあるのが現実です。
終わらない事件と「立ち直り」のギャップ
未解決事件は、文字通り「終わっていない」事件です。犯人が特定されず、真相が明らかになっていない状況では、事件そのものが過去の出来事として整理されることが非常に困難です。愛する人が突然奪われた悲しみや怒りに加え、「なぜ」「どうして」という問いが常に心の中にあり、事件発生から時間が経っても、あの日の出来事がフラッシュバックすることも少なくありません。
このような状況の中で、「立ち直る」という言葉は、あたかも事件による悲しみや苦悩を乗り越え、元の日常に戻ることを期待されているように聞こえることがあります。しかし、事件によって根こそぎ奪われた「元の日常」は、二度と戻ることはありません。そして、真相が闇に包まれたままでは、心の中に深く刻まれた傷が癒えることは、限りなく難しいのです。
社会との温度差が生む孤立感
「立ち直り」を期待する言葉の背景には、おそらく「時間の経過と共に悲しみは薄れるもの」「前を向いて生きてほしい」という一般的な感覚があるのでしょう。多くの場合、これは正しい理解です。しかし、未解決事件という特殊な状況にある私たち家族にとっては、時間の経過が必ずしも心の癒やしに繋がるわけではありません。むしろ、時間が経つことで風化への不安が増したり、社会の関心が薄れていく中で孤立感を深めたりすることもあります。
こうした中でかけられる「立ち直り」という言葉は、私たち家族が置かれている独自の苦悩が見過ごされているように感じさせ、かえって孤独を深めてしまうことがあるのです。「いつまで悲しんでいるのだろうか」「もう前を向くべきではないのか」と、自分自身を責めてしまうことにも繋がりかねません。
私たち家族が求める「立ち直り」ではないもの
私たち未解決事件の被害者家族が本当に求めているのは、「立ち直る」という形で悲しみを終わらせることではありません。
- 事件の真相が明らかになることへの願い: 何よりも、愛する人の命が奪われた真実を知りたいという強い思いがあります。これが、私たちの心の中にある最も大きな区切りとなるからです。
- 悲しみや苦悩を否定されないこと: 事件の悲しみや、終わりの見えない苦悩を抱えている今の私たちを、そのまま受け止めてほしいと願っています。「立ち直り」を急かすのではなく、「つらいね」「大変だね」と、ただ寄り添ってもらえるだけで、心は救われます。
- 社会の理解と関心の継続: 事件が風化せず、社会が関心を持ち続けてくれることが、私たち家族にとって大きな支えとなります。それが、真相解明への希望を繋ぐ力になるからです。
「立ち直る」という言葉は、目標として提示されることが多いように感じますが、私たち家族は、悲しみや苦悩を抱えながらも、今の自分たちのペースで、懸命に日々を生きています。それは、「立ち直る」という言葉が表すような、過去を乗り越えて完全に癒えた状態とは違うかもしれません。しかし、これもまた一つの大切な「生き方」なのです。
寄り添うために、言葉の背景にある思いを理解する
もし、身近に未解決事件の被害者家族がいらっしゃる方がこの記事を読んでくださっているなら、どうか「立ち直り」という言葉をかける前に、少し立ち止まって考えていただけると幸いです。その言葉が、家族にとってどのような重みを持つのか。そして、家族が本当に必要としているのは、言葉による励ましよりも、静かな共感や、終わらない事件への理解、そして見守る姿勢なのかもしれません。
私たち家族は、「立ち直る」という言葉に違和感を抱きながらも、社会との繋がりや理解を求めています。この「家族たちの声」が、その一助となり、お互いの心に寄り添える社会となることを願っています。