家族たちの声 - 時を止めた事件

「あの人」への感情と寄り添う - 未解決事件被害者家族の心の歩み

Tags: 未解決事件, 被害者家族, 感情との向き合い方, 心のケア, 苦悩

未解決事件がもたらす感情の波

未解決事件によって突然、大切な人を奪われたご家族は、想像を絶する悲しみや喪失感に直面されます。深い絶望の中で、様々な感情が押し寄せ、心は激しく揺れ動くことと思います。その中でも、「あの人」、すなわち事件の加害者への感情は、特に複雑で、容易には言葉にできない苦悩の一つではないでしょうか。

怒り、憎しみ、そして強い疑問。なぜ、どうして、という問いが頭から離れず、時には憎しみが心を支配しようとすることもあるかもしれません。しかし、こうした感情は、決して特別なものではありません。大切な存在を理不尽に奪われた被害者家族にとって、加害者への複雑な感情を抱くことは、人間の自然な反応であり、誰もが抱きうる感情です。ご自身の感情を否定したり、罪悪感を抱いたりする必要は決してありません。

感情との向き合い方の難しさ

怒りや憎しみといった強い感情は、心だけでなく体にも大きな負担をかけます。眠れなくなったり、食欲がなくなったり、常に緊張状態が続いたりすることもあるでしょう。また、そうした感情に囚われ続けること自体が、ご自身の心を疲弊させ、日常生活を送る上での大きな妨げとなることもあります。

一方で、感情はコントロールしようと思っても、簡単にできるものではありません。忘れようと思っても忘れられない、憎まないようにしようと思っても憎しみが湧き上がる、といった経験をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。感情は生きている証であり、無理に蓋をすることは、かえって心に歪みを生じさせることもあります。

感情の多様性と変化

加害者への感情は、怒りや憎しみだけではありません。なぜ止められなかったのかという自責の念、無力感、事件への諦め、そして時には事件そのものから意識を遠ざけたいという気持ちなど、様々な感情が入り混じっている場合もあります。また、時間の経過や、事件を取り巻く状況の変化、そして周囲の支えなどによって、感情は少しずつ形を変えていくこともあります。

すぐに感情が和らぐわけではなくとも、僅かな変化を感じることもあるかもしれません。それは、感情が消え去るということではなく、感情との「距離」が変化したり、他の感情(例えば、故人への深い愛情や、残された家族を守りたいという思い、あるいは、このような悲劇を二度と繰り返してほしくないという強い願いなど)がより強くなったりすることもあるでしょう。感情は一つの色ではなく、様々な色が混じり合った複雑なものです。

感情と共に「歩む」こと

加害者への感情を完全に「手放す」ことは、多くの被害者家族にとって、現実的ではないかもしれません。むしろ大切なのは、そうした感情を抱えている自分を受け入れ、感情に完全に支配されるのではなく、感情と共に生きていくための「歩み」を見つけることではないでしょうか。

感情と向き合うためには、信頼できる人に話を聞いてもらうこと、専門家(カウンセラーや心理士など)のサポートを得ること、同じ経験を持つ他の被害者家族と交流することなどが有効です。話すことで感情を整理できたり、一人ではないと感じられたりすることが、心の負担を軽減する助けとなります。また、ご自身の健康を保つための日々の営み(食事、睡眠、適度な休息など)も、感情の波に乗りこなし、心身のバランスを保つ上で非常に重要です。

社会ができること、社会への願い

被害者家族が抱える加害者への複雑な感情は、外からは見えにくく、理解されにくいことがあります。社会全体が、こうした家族の苦悩に寄り添い、偏見を持たずに耳を傾ける姿勢を持つことが重要です。安易な同情や、感情を否定するような言葉ではなく、ただ「苦しいのですね」「大変な経験をされましたね」と、その感情を受け止める姿勢が、どれほど家族の支えとなるか計り知れません。

そして、被害者家族が安心して自身の感情を語れる場、必要な心理的な支援を受けられる体制の整備は、社会全体に求められる喫緊の課題です。加害者への感情は、事件解決への強い願いの裏返しでもあります。被害者家族が抱える感情に寄り添うことは、事件の風化を防ぎ、真相究明への社会的関心を維持するためにも不可欠です。

感情と共に、希望の灯を

未解決事件が続く限り、「あの人」への感情が完全に消えることはないかもしれません。しかし、感情の全てが苦しみであるわけではありません。大切な人を想う気持ち、そして、この悲劇から何かを学び、未来へ繋いでいこうとする強い意志もまた、感情の一つです。

被害者家族の皆さまが、ご自身の抱える感情を決して一人で抱え込まず、支え合いの中で、ご自身のペースで感情と向き合い、未来への一歩を歩んでいかれることを心から願っております。そして、この歩みを支えるために、社会が温かいまなざしと具体的な支援の手を差し伸べ続けることが、私たちの共通の願いです。