事件が遠ざけた人、近づけた人 - 未解決事件被害者家族が向き合う人間関係の変化
事件後に訪れる、身近な人間関係の変化
突然の事件は、被害者ご本人から大切な命を奪うだけでなく、残されたご家族の日常、そして人生そのものを一変させてしまいます。経済的な問題や法的な手続き、捜査への対応など、様々な困難に直面する中で、もう一つ、多くの被害者家族が経験するのが、身近な人間関係の変化です。
これまで当たり前のように続いていた友人や親戚との関係、職場での人間関係などが、事件を境にぎくしゃくしたり、距離が生まれてしまったりすることが少なくありません。この変化は、深い悲しみや苦悩を抱えるご家族にとって、さらなる孤立感や痛みを伴う場合があります。
善意からの距離、あるいは心無い言葉
事件が起きた直後は、多くの方が心配し、寄り添おうとしてくださるかもしれません。しかし、時間が経つにつれて、どのように接して良いか分からず、距離を置いてしまう方もいらっしゃいます。「そっとしておこう」「余計なことを言わない方が良いだろう」といった善意からの配慮が、結果的にご家族との間に見えない壁を作ってしまうこともあるのです。
また、心ない言葉や不用意な質問に傷つくこともあります。「もう立ち直った方がいい」「いつまでそんなことを言っているんだ」といった言葉は、事件によって受けた傷が癒えないままのご家族にとって、深く突き刺さります。事件の詳細について詮索されたり、憶測に基づいた話をされたりすることも、苦悩を増幅させます。
ご家族は、事件のことを話したい時と、そうではない時があります。そして、話す内容も、事件そのものではなく、失った大切な人の「生きた証」や思い出を語りたい時もあります。しかし、周囲がどのように反応するのかを恐れ、自身の感情や思いを表現することをためらってしまうことがあります。このような経験が重なることで、周囲とのコミュニケーションを避けるようになり、孤立感が深まってしまうのです。
変化の中で見出す、かけがえのない繋がり
一方で、事件を機に、これまで以上に深く繋がることができる人々も存在します。言葉は少なくても、ただそばにいてくれたり、話を聞いてくれたりする存在は、何よりも大きな支えとなります。ご家族の悲しみや苦悩を理解しようと努め、根気強く寄り添ってくれる人々との出会いは、暗闇に差し込む光のように感じられることでしょう。
また、同じように未解決事件の被害者家族という立場になった方々との繋がりは、独特の安心感をもたらします。同じような経験をしたからこそ理解できる痛みや葛藤、そして、社会への願い。こうした思いを共有できる場所があることは、孤立を防ぎ、明日を生きる力となります。既存の被害者支援団体や自助グループなどが、そのような大切な役割を果たしています。
人間関係の変化にどう向き合うか
人間関係の変化は避けられないものかもしれませんが、その中でご自身を守り、支えとなる繋がりを見つけることは可能です。
まず、ご自身の感情や状態を理解し、無理に「普通」であろうとしないことが大切です。周囲の人々も、どのように接すれば良いのか戸惑っていることが多いということを理解し、完璧な理解や反応を期待しすぎないことも必要かもしれません。
そして、信頼できる友人や親戚、あるいは専門家や支援団体の人々に、率直な気持ちを話してみることも有効です。全てを理解してもらえなくても、話すこと自体が心の負担を軽くすることにつながります。
また、被害者家族同士の集まりや交流会などに参加してみることも、孤立を防ぎ、新たな支えを見つけるための重要な一歩です。
社会へのお願い
未解決事件の被害者家族が経験する人間関係の変化は、目には見えにくい苦悩の一つです。周囲の方々におかれましては、「励ますこと」や「解決策を示すこと」よりも、まずは「話を聞くこと」「寄り添うこと」を心がけていただけると幸いです。何を話して良いか分からない場合は、「何かできることはありますか」と尋ねたり、無理に事件に触れず、日常的な話題で穏やかな時間を共有したりすることも、大切な支えとなります。
私たちは、事件が遠ざけてしまった関係に心を痛めながらも、新しく生まれた、あるいはより深まった繋がりを大切にしながら歩んでいます。社会全体の理解と、温かい寄り添いが、私たち被害者家族の心の支えとなります。